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「ねぇ、エファさん。わたくしを選びません? 幸せにしてさしあげますわ」
「い、いや、ちょっと問題があるんじゃ」
「問題などなにもございません。ここにあるのは、純粋なる愛だけ」
「ひゃっ、どこ触ってっ」
ドレスの上から横腹を撫でられ、ぞくぞくと身体に震えが走る。それがおかしかったのか、フィリーネは表情を緩めてエファの頬にキスをした。
「……愛しています。神下の次に」
ぺろり、と頬を舐められ、ちゅうと甘噛みされる。ひぃぃ、と悲鳴に近い声をあげたエファは、フィリーネの身体を突き飛ばした。けれど、思ったよりたくましい胸は、びくとも動かない。
(な、なんで)
一瞬、フィリーネが実は男ではないのかと疑ったが、エファの上に乗っかるフィリーネの胸元はばっちりと見えているし、身体の曲線も激しく女性らしいものだ。
間違いなく女性なのに、エファの力では到底かなわない。
(て、貞操がやばい!)
エファの頬を舐めることをやめないフィリーネをなんとか退けようと勇んでいると。
「何をしてるんです!」
悲鳴に近い声音に、ほっと安心する。
身体を起こしたフィリーネが、ため息をついた。
「あら、もう戻ってきたのね。お早いこと」
「彼女は私の妻ですよ。もう正式な書類も受理されてるんです。あなたが出る幕はない」
「少しくらいいいじゃなーい」
「よくありません、エファさん無事ですか」
「……うん。子犬に舐められたと思えば、平気」
「舐められた!? ちょ、なに舐めてるんですか、本気で辞めてください! 殴りますよっ」
「あなたにやすやすと殴られるわたくしではなくてよ。……そうだ、エファさんに茶葉を持ってきましたの。お約束したように、一緒にお茶でも楽しみません?」
「茶葉だけいただきます、あなたは帰ってください」
「エファさんに言ってるのよ、あなたじゃなくて!」
睨みあうフィリーネとレオナルトを見つめながら、袖口で涎まみれの頬をぬぐう。
「あなたが出ていって」「あなたこそ邪魔です」などという口論をどこか遠くで聞きながら、エファはただ顔をひきつらせた。
(……どうしたらいいんだよ)
どう考えてもエファは美男美女に取り合われるような魅力的な人間ではない。一体なにが、彼らをここまで駆り立てるのか。
一度ため息をついて、エファは苦笑した。
とりあえず、仲裁をしよう。
エファはよしと気合を入れると、二人のあいだに割って入った。
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