第三章

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 王都ベリランカにきて、一週間が過ぎようとしていた。  エファは今日も今日とて、レオナルトが仕事に出かけるのを見送り、部屋で一人読書にいそしんでいる。  正直な感想、本当に夫婦になったのかわからないほど、ときは穏やかに過ぎていた。なにしろ、噂に聞く夫婦の営みとやらが、まったくもってないのだ。  もちろん、ベッドが一つしかないので夜は一緒に眠っている。けれど、本当に眠るだけで、レオナルトはそれ以上のことを及ぼうとしない。 (……聖伯爵、って清い身でないと駄目なのかな)  そんなことを考えてみるが、単純にエファに魅力がないのかもしれなかった。第一、ここにきた初日に子どもを作ろう宣言をされているので、清い身でなければいけないということはないだろう。  コンコン、とドアが叩かれ、返事を返す前にレオナルトが慌ただしく入ってきた。ここのところ忙しいらしく、日中から日暮れまで、忙しなく動き回っているのを見かける。 「今度は何を読まれているんです?」  忙しいだろうに、彼はエファによく話しかけてくれる。エファは笑顔で本を掲げてみせた。 「ブルディーラ神国史だよ。すごく詳しく乗ってるんだ」 「ああ、それですか。私もその本は気にいってるんですよ、神下に沿うように歴史が乗ってますからね。著者が、元聖伯爵だったかたなんですよ」 「えっ、そうなんだ! だから、こんなに詳細なんだね」 「……紅茶をお煎れしましょうか」  抱えていた書類を書斎に置いて戻ってきたレオナルトは、にこやかにそう言った。  ぱっ、とエファは表情を輝かせる。 「休憩とるの?」 「ええ。このあと、神下の用事で城下に降りなければならないので、その前に休憩を取っておきます。もちろん、ご一緒してくださいますよね?」 「うん。じゃあ、茶器をとってくる。レオナルト様は、ここで待ってて」 「私が行きますよ」  立ち上がろうとしたエファを遮り、レオナルトが立ちあがる。けれど、それをも制して、エファは立ち上がった。 「暇だから、あたしが行く。大丈夫だよ、もう迷わないから」  ここに来た翌日、レオナルトに紅茶を煎れてあげようと意気揚々と茶器を取りにいったのはいいが、厨房の場所がわからずに二時間も放浪したのは忘れてしまいたい過去だ。  あれから、一週間。  暇を持て余しているエファは、部屋近辺の王城の造りは大体覚えた。もっとも、貴族や高官が集う表側の王城には、まだ足を踏み入れたことがないのだけれど。  厨房から茶器と熱湯をもらってきたエファは、レオナルトの役にたてることが嬉しくて、うきうきと回廊を進んでいく。  龍の文様が施された白い柱を曲がろうとしたとき、突然目の前に現れた男に驚いて、足を止めた。
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