月下美人

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月下美人

もう幾日、歩いたのか覚えていなかった。 最後に食事を摂ったのはいつだったか。 最後に喉の渇きを潤したのはいつだったのか。 わたしは額を流れ落ちる汗を何度も拭いながら、ゆっくりと月明かりの下で輝くそれに近づいていく。 この一輪を見つける為だけに、わたしはこの地を彷徨った。 途方のない森を抜けて、獣が横行する山の中を歩いて。 見つからないのではないかと、諦めかけて帰ろうとした時もあった。 けれども、わたしは全く後悔していなかった。 それも、この花を見つけた時に全て忘れた。探し続けた甲斐があったからだった。 ーーこの一輪で、君が元気になるのならば、わたしはどんな事も成そう。 そうして、わたしは光輝く白い花を手折ったのだった。 手折った時に、白い花から漂った優しい匂いと雪の様な細かく小さな光が、周囲に漂ったのだった。 白く大きな花びらを広げた月下美人ーー月華の花を。
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