少年勇者の旅立ち

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少年勇者の旅立ち

これは、こことは別の世界、別の時代のお話です。 ある町に、ゼンという名の少年がいました。少年は、母親と2人で暮らしていました。 あるとき、町を歩いていると、とある男に呼びかけられました。 「ゼンというのは君かね」 ゼンが声のあったほうを見ると、太って年がいった男の姿がありました。 「うん、そうだよ。だけどおじさんは誰?」 ゼンの問いに対し、男は答えました。 「私は、君のお父さんの知り合いなんだよ」 「へえ、そうなんだ」 ゼンは、自分の父親は冒険家で、モンスターとの戦いで死んだと、小さいときから聞かされていました。 「どうだい、君の家族に会わせてくれないか」 「いいよ、ぼくんちにおいで」 ゼンは、男を自分の家に連れていきました。ゼンの母は、やってきた男を家に入れてもてなしました。そして、3人で話をしました。 男は、ダギーという名前で、世界のあちこちを旅していて、この町に来たついでに、昔世話になったという人物の妻と息子が住んでいるということで、ゼンという少年に話しかけてきたということでした。 一通り話がはずんだところで、男は席を立ちました。 「もう遅いのでそろそろ宿へ戻ろうと思う。しばらくこの町にいるつもりだ。また明日来よう」 「うん、お父さんの話をもっと聞かせてね」 「いいだろう」 そういって男は、家を出て去っていきました。 次の日。少年が朝早く起きて外に出ると、昨日来た男がやってきていました。 「あ、おじさん、おはよう」 「おはよう。お母さんはいるかね」 声に気付いて、母が家から出てきました。 「おはようございます。早いですね」 「うむ。今日はゼンにこの町を案内してもらいたいと思っていたんです」 「そうでしたの。それじゃ、行ってらっしゃい」 「行ってきます、お母さん」 ゼンと男は、歩いていきました。 いくらか歩いたところで、男はゼンに聞いてみました。 「どうだね、冒険してみないかね」 冒険。この言葉を聞いて、ゼン少年はわくわくしました。 世界中を巡り、洞窟など色々なところを探索し、悪い魔物を退治したり、宝を見つけたりし、そして王様から称号を授かり、やがて勇者となる。 ゼンの死んだ父もそういった冒険家でした。 「ぼく、お父さんみたいな冒険家になるんだ。だけど、お母さんが、まだ小さいから冒険はしてはいけないって言うんだ」 「それじゃあ、お母さんに内緒で、おじさんが冒険をさせてあげよう」 ゼンは最初は迷いましたが、おじさんと一緒にいれば何とかなると思い、やってみようという気になりました。 「じゃあ、おじさんに付いてきなさい」 おじさんは歩き出し、ゼンはそのあとを付いていきました。 しばらくすると、山の中までやってきました。 急な坂が続いていて、つらい思いをしながらも、ゼンはおじさんが歩いていく後ろから登っていきました。 かなり歩いたところで、おじさんは足を止めました。 そこは、山肌の壁が垂直に立ちはだかっていました。 「ちょっと離れてなさい」 おじさんはゼンを壁から少し離れたところへ連れていきました。そして1人でまた壁のところへ近づいていきました。それから、壁に向かって何か話し始めました。いや話しているというより、ゼンの見たところ、意味不明の言葉で叫び続けているという感じでした。 いくらか時間が経ったところで、ゼンは少し揺れを感じました。どうやら壁が揺れているみたいでした。 おじさんが足早に戻ってきて、言いました。 「早くここから離れろ」 おじさんはゼンを背中から押しながら走りました。少し走ったところで、おじさんは立ち止まり、壁のあるほうを振り返り、ゼンも同じように後ろを振り向いて見てみました。 壁の揺れがだんだんと大きくなっていきました。そして、突然、爆発が起きました。 爆発が完全に治まったのを見計らって、おじさんはまたその方向へ歩いていき、ゼンも付いていきました。 かなり近づいていったとき、見てみると、壁のところに穴が開いていました。人が入れるほどの大きさでした。
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