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【商売上手の男】
「兄さん、砂漠の水の値段を知っているかい?」
俺は水を買おうとしたが、値札の【500ml ¥200】を見て買うのを躊躇(ためら)った。
その様子を見て、小屋で商いをしていた男はこう言う。
「砂漠の真ん中ではコップ一杯の水が1000円、いや一万円でも買う人はいるんだよ」
そんな事、俺だって分かっている。
しかし、東京で水道の蛇口を捻って出るペットボトル一本分(500ml)の水は約0.1円くらいだ。
コンビニでミネラルウォーターを買ってもせいぜい100円だ。
どう考えても暴利だ。
「ははは。麓(ふもと)で100円で買える水が倍の200円は暴利だと考えているね?」
どうやら俺の心中は見透かされているようだ。
そうは言ってもココは砂漠ではない。
標高3000mの山で五合目だぞ。
ここまで整備された登山道もあり、危険を感じる事もなかった。
「買う買わないは自由だよ」
そう、買わない自由もある。
バックパックには500mlのペットボトルが2本入っている。大丈夫だ。
「兄さん、ただ知っておいて欲しい。この先に登って遭難して戻らなかった人は皆……」
「? なんです? 皆どうしたと?」
「皆、ここの水を買って行かなかったんですよ」
「5本下さい」
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