三章  お別れなんて嫌だった

3/7
前へ
/102ページ
次へ
   ハチは、わたしが小6のときにうちにやってきた保護猫だ。  まだほんの小さい仔猫で、母親とはぐれたらしい、近くの文具店の軒先で雨に打たれて震えているところを店のおばあちゃんに拾われて、わたしの家に来た。  わたしはひとりっ子で、かつ長い間鍵っ子だった。  まだ小さい頃に近所で不審者が出て以来、外遊びを禁止されたわたしは、家でひとり寂しく過ごすことが多くて、ハチが家にきて、一緒に過ごしてくれるようになって、世界が変わった。  外へ行けなくても平気になったし、友だちと遊べなくても少しもさびしくなくなった。  それに、自分で言うのもなんだけど、ハチのためにそれまでよりしっかり者になった。  ハチは友だちであり兄弟であり、家族だったのだ。  ――今はもう、手放してしまったけど。
/102ページ

最初のコメントを投稿しよう!

84人が本棚に入れています
本棚に追加