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「落ち着いた?」
やわらかい声が降ってきて、わたしは深い感情の海から浮上した。
腫れぼったい目で一度永人くんの顔をうかがい、気まずさに負けてぐっと頭を下げる。
「ごめんなさい。本当に、ごめんなさい」
「こっちこそごめん。まさかマルちゃんの猫がいると思わなくて」
「それはだって、言ってないもん。猫カフェに預けてるって……」
また永人くんに気を使わせてしまった心苦しさで、わたしは消えたいほど小さくなる。
今、わたしたちはプレイルームの隅に並んでいた。
取り乱したわたしに店員さんたちはやさしくて、「ここならゆっくりできるよ」と、案内してくれたのだ。
ベンチシートに載せられたモチモチのクッションが最高の座り心地で、わたしの太ももに添うように寝そべっているハチも、すっかりくつろぎモード。
このままだったらたぶんお昼寝し始めるだろう。
でも、さっきまではハチも鳴いていたのだ。
わたしが泣くから。
でも涙が止まったらとたんに頭や身体をすりつけてきて、もう、べったりだ。
「ハチってマルちゃん大好きだなー」
「仔猫のときから一緒だから」
答えながら、ハチの黒い頭をゆったりなでる。
気持ちよさそうに目を細めるハチは、家にいたときそのまんまだ。
わたしが落ちこんでいるときにはそばに来て、わたしが元気なときには自由気まま。遊ぼうと誘っても気まぐれにしか乗ってくれなくて、おなかが空いたときと外に出たいときだけは全力でアピール。
かわいい子なのだ。
「ハチー」
顔をのぞきこみながら、永人くんがハチの鼻先をなでてくれた。
ハチは少しも嫌がらず、むしろ自分から鼻を寄せて「もっと、もっと」って催促しにいく。
「やば。ハチかわいい」
真顔で感動する永人くんがおかしくて、少し笑ってしまった。
ハチは猫好きな人が分かるのだ。
猫嫌いの人からは逃げるけど、猫好きの人には自分から全力で寄っていく。
そんなところも愛おしい子だった。
「マルちゃん。聞いていい?」
ひとしきりハチをなで回したあと、永人くんが顔をあげた。
「なんでハチのこと飼えなくなったの?」
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