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一章 不審者、のち猫ばか
今日のおうし座のラッキーアイテムは、バレッタだった。
特別当たる占いというわけではなかったけど、わたしはいつも髪をハーフアップにしているし、仕上げに何かしらのアクセサリーをつけるようにしているから、ヘアアクセを詰めたカゴの中から、当たり前のようにバレッタを選んでいた。
まっ黒で、アーモンド形のビジューの目がついた猫の顔のバレッタ。
それは、中学を卒業すると同時に遠くに引っ越さなくてはいけなかったわたしに、親友の佐緒里(さおり)がプレゼントしてくれたものだ。『マルちゃん、寂しくなったらこれ見て笑って』って言って。
実はその猫の顔は絶妙にかわいくなくて、見るたびに笑ってしまうのだ。
今朝もそう。
鏡の前で手にとって、ついつい笑ってしまって、たったそれだけで気持ちが前向きになって、なんかいいことあるかもって、スクールバッグの肩ヒモを握る手にいつもよりちょっとだけ力が入った。
だけど、下校途中の今、「いまいちパッとしないまま一日だったなー」なんて、ため息をつきながら歩く自分がいる。
べつに星占いのランキングでおうし座が十二位だったからってわけじゃないと思う。
季節は春。四月の第二週。
出会いと別れの多いこの季節、別れの方が多かったわたしは近ごろ少し憂うつなのだ。
「だんご~。だんご~」
まだ慣れない街の風景。このあたりでは一番の目印になるイチョウ公園の前にさしかかったとき、突然そんな声が聞こえてきた。
おだんご屋さん?
つい振り向いてしまったけれど、それらしい人はいない。
そりゃそうか。ヤキイモ屋さんやおとうふ屋さんは見かけたことがあるけど、おだんごを売ってまわる人なんか見たことも聞いたこともない。だいたい、このあたりは住宅街だ。大きい通りに出ないとコンビニさえない。
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