ケーブルテレビ局終了のお知らせ

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 僕の本業は、自営業だ。親の代は酒店だったが、取り扱い商品を増やして、商店をしている。  最近は、小説本も置いている。売りたい本より、読んでいただきたい本を置くようにしている。  まあ、ご近所の顔なじみさまのおかげで、店の経営が成り立っている。  副業は、赤丸(あかまる)ケーブルテレビだ。理由は単純だった。  事の発端は7年ほど前に(さかのぼ)る。  ご近所にマンションが数棟立った。工事が始まったら、地上波のテレビが映らなくなってしまった。  あとから知ったのだが、マンション工事をしている業者さんに、相談すべきことだった。  当時知識がなく、困ってしまって、近所で電気工事店に相談した。 「テレビの映りが悪くて、砂嵐なんです。見てもらえませんか?」 「承知しました。アンテナ工事のご依頼ですね」  10分で到着と言って、電話を切られた。工事屋さんが新品の大型アンテナを、屋根の上に設置した。テレビはまた見れるようになった。  少し高くついたので、マンションの工事をしている現場に行く。  建築主がご近所の知り合いだったので、電気工事店の領収書を持って、請求しにいった。 「良かった。赤丸(あかまる)さん。分譲マンションの屋上にアンテナ立てるのに、べらぼうな金額かかるんです」 「大変ですね」 「そこでですね、赤丸(あかまる)さんの家から、ケーブルで地上波のテレビを引っ張って、全世帯で見られるようにしたいんです」 「良いですよ」  気軽にオーケーしてしまった。近所でテレビの映りが悪いお宅にも、ケーブルで配信することにした。ケーブルを借りるのは、電力会社に泣きついた。  あれこれ書類を提出して、電柱にあるケーブルを貸してもらえた。ケーブルを借りる代金は、マンション大家さんが管理する二百世帯と、ご近所さんの数で割って、代金を銀行口座で引き落とししていた。  ある日、町役場の職員さんが尋ねてきた。 「赤丸(あかまる)さん、ケーブルテレビ局扱いになるので、届出必要なのです」 「そうですか」  町役場や政府の出先機関に電話して書類を郵送してもらった。書き方は、何度も電話で聞いた。結果、法人になり、ケーブルテレビ局の開業が認められた。  すごく苦労したが、とても勉強になった。  視聴世帯は、マンションの二百世帯とご近所の数十世帯だ。マンションの大家さんからは月に5万円をいただいている。  ところが状況は変わった。  大家さんが、屋上に地上波テレビアンテナを立てるので、解約したいそうだ。マンションの住人さまも、店の大事(だいじ)なお客さまだ。  渋々了承した。  事前にご近所さまにも告知をして、1年後にはケーブルテレビ局を廃業することにした。  もともと、おいしい副業だった。マンション大家さんにも、ご近所さまにも感謝しかない。  1チャンネルだけ、独自のチャンネルがある。ケーブルテレビ開業のとき、僕の店の通販番組や、紹介番組を流せるので申請した。  通販番組の依頼は結局なかった。  しかし、この7年間マスメディアらしいことは、何もしていなかった。  強いて言えば、地元の町議会を中継しただけだ。町議会の議場になる会議室に、に三脚を二つ立て、ハンディカムを固定して中継だ。  町議会の職員さんに、ハンディカムの設置をしてもらっていた。スイッチまで入れてもらっていた。  ほかの時間はカラーバーが多い。店の定休日に、(ひま)で暇で仕方がないときは、僕の店は、録画した15分CMを流しただけだ。  7年前録画して、変わらないCMだ。お客さんからは、ほのぼのしてる、とたまに褒めてもらえる。  最後の1年間は、視聴世帯の皆さまに恩返しがしたいが、企画が全く思いつかない。  バイトさんが入っている時間帯は、僕の休憩時間だ。某、小説投稿サイトで作品を読もうとした。僕も1作品だけ長編小説をこまめに書き続けている。
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