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僕の住んでいる町は、交通の便が悪い。まず鉄道の駅がない。隣の市にある駅は、昼間は1時間に電車が2本だ。
町営の巡回バスが、最寄りのバス停まで走ってくる。朝は1時間に3本だ。
都会の方からすれば、多分、田舎だろう。
晴れの授賞式、当日になった。日曜日なので、ご近所の町役場勤めの方が、カメラマンをしてくれた。
問題なのは、受賞者さまがどなたも参加されないのだ。赤丸ケーブルテレビでは、授賞式を生中継する。
また、再放送もする予定だ。喫茶店の裏側で、頭を抱えている僕に同人作家の須川 《すがわ》 大平君が肩に手をのせてくれた。
「大丈夫。何とかなる」
授賞式が始まった。飾り付けられたお洒落な、喫茶店では、来賓の町長さんがスタンドマイクの前で、挨拶をしている。
商店街振興組合の幹事じゃなかった、えーと、町会議長も挨拶だ。
緊張しすぎて、何を言ってるのか分からないし、逃げ出したい。
挨拶の最後は、主催者の僕だ。紙を取り出して、震える声で定型文を読み上げた。重い足取りで、力なく、パイプ椅子に腰を下ろした。
審査員の須川 《すがわ》 大平君の受賞作発表が終わった。僕は目の前が真っ暗になる。
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