私の弟

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「陽菜乃ー!」  私を呼ぶ声にはっとした。 「ママー!」  声の方を振り返って返事をした。ママがこっちに向かって来る。ママは陽介の手をしっかり握り、よそ見をしている陽介を引っ張っていた。 「陽介……いた…」  あれだけ探して見付からなかった陽介を、ママが見付けてくれていた。ほっとしたような少し残念なような、自分でもよく分からないもやもやした気持ちがした。私は2人から目を逸らして、地面を見た。 「ひなちゃん、ごめんね。陽介のこと、探してくれてたの?」  またママに謝られた。悪いのはちゃんと見てなかった私なのに。そう思うと、ますます顔を上げられなくなった。 「陽介ね、トイレに来たの」 「トイレ?」  ママの意外な言葉に思わず顔を上げた。目が合うと、ママはにっこりと笑った。 「ママはトイレにいるって、ちゃんと分かってたのね」  ママがどこに行ったのか陽介がちゃんと分かっていたことに驚いた。それと同時に、ママの所に行くなら一言言ってから行って欲しいと思った。陽介にそんなこと出来ないのは知ってるけど。 「それでね…」 「!?」  ママの話を遮るように、陽介がママと私の間に割り込んできた。そして、黙って腕を私に突き出した。 「何?陽介」  私は苛立ちを抑え、出来るだけ平坦な声で聞いた。陽介の返事はない。  陽介は、さらにぐいっと握った手を私の胸に突き出して来る。 「何?お姉ちゃんに用事?」  陽介の手を掴み、陽介の合わない目を見ながら聞く。陽介に代わってママが「違うの」と答えてくれた。 「陽介、最近『どうぞ』を覚えたの」  ママは嬉しそうに言うと、持っていた二股に分かれた小さな木の枝を私に見せた。きっと陽介が拾った物なのだろう。そしてよく見ると、私が掴んでいる陽介の手にも、同じような枝が握られていた。 「陽介、『どうぞ』よ」 「うっ、うー!」  陽介は、早く受け取れと言わんばかりに枝を持つ腕を振る。私は掴んでいた手を放して枝を持つと、陽介はぱっと手を放した。  私は少しの間受け取った枝を見て、それから陽介を見た。陽介はじっと私の持つ枝を見ている。  私は枝を見る陽介の目を見ながら「ありがとう」と言った。すると、陽介は踵を返して走って行った。当然のようにママは陽介を追いかける。走って行った2人を目で追うと、陽介は木がたくさん植えられている所に入って行って、何かを探し始めた。  今度の遊びは、木の枝探しのみたいだ。ママもそれに付き合うように、陽介の近くで枝を探している。  私は陽介からもらった枝を見ながら考えた。
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