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母はいない。父はぜんぜん帰らない。だれも文句を言う人間はいない。たぶん父は、今頃、もうひとつの「家族」と団らんしている。
高木さんの家。
玄関前に女性がひとり。
ショートカットにパッチリした目。
白のブラウスに紺のニットスカート。長くて白い脚。白のクルーソックス。
高木さんにそっくりの女性。もちろんずいぶん年上。
ジッとぼくの顔見ている。なにも言わず真剣な顔で見ている。
「こんにちは。高木さんの友だちの日下部です。
高木さんが今日、学校を休んだので・・・」
「彩香の母親です。上がってくれるかしら・・・」
高木さんのお母さんはそう言って、ぼくを招き入れた。
高木さんの勉強部屋。向かい合って床に座る。高木さんのお母さんのきれいなひざ小僧が目に入る。僕、思わず顔を横に向けた。
「行方不明?昨日から帰らないなんて!」
「警察には電話した。心当たりは電話したり探したりした。
彩香の父親が、
『家出だろう。騒ぎにするな』
と、弁護士を通じて言ってきた」
「そんな!ひどい!誘拐されたのかもしれないのに!」
「日下部君も中学生。教えておくから・・・
彩香の父親は前田銀一。聞いたことない?」
「コープコンツェルン」って日本でも有数の財閥の会長!
「だけどわたしは、前田の奥さんじゃない。奥さんは別にいるの。
これでだいたい分ったでしょう」
高木さんのお母さんって、淡々と説明してくれた。
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