妖精カノン

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サランの案内で、とんでもない数の、おどろおどろしい扉のある部屋にサンドルフは通されました。 「あー、やさぐれてる…」とサンドルフが言った途端に、ほとんどの妖精が姿を消しました。 どうやら、サンドルフがかなり怖かったようです。 「カノンちゃんはいるのかな?」とサンドルフが言うと、ひとりだけ驚いた顔をしたゴリラのように逞しい肉体を持った動物の妖精がいました。 「立派だなぁー…」とサンドルフが言いましたが、妖精カノンは驚いた表情のまま固まっています。 「君がカノンちゃんでいいの?」とサンドルフが言うと、妖精カノンはこくんとうなづいただけです。 「君がしたことは、風の妖精のフーロンから聞いたよ。  そして君がされていたことも」 妖精カノンは驚いた表情のままうなだれました。 サンドルフはフーロンに聞いた話しをもう一度ここでしました。 妖精カノンに異論はないようで全てを認めました。 「僕の妖精にならない?  動物の妖精、大募集中なんだよねぇー…」 サンドルフが言ったとたん、妖精カノンに隠れるように、大勢の動物の妖精が列を成しました。 「あはは、行儀いいんだね。  みんなも、カノンちゃんと同じような目にあったんだよね?」 サンドルフが言うと妖精たちは一斉にうなだれました。 「今並んでいる人は、本当に僕を主人として仕えられると思ってるの?」 サンドルフが言うと、妖精たちは一斉に顔を上げて、そして、妖精カノンも含めて、首を横に振りました。 「どうして仕えられないんだろうね?  カノンちゃん」 サンドルフが言うと、妖精カノンは唇を震わせて、「俺、ろくなことができねえから…」と言って肩を落としました。 「でも、力はあるんじゃないの?  それに、本当は優しそうだし」 サンドルフが言うと、妖精カノンは下を向いてホホを赤らめました。 サンドルフが天使デッダに変身すると、サンサンもすぐに変身しました。 サンドルフもサンサンも、天使デッダという二頭身のかわいらしい恐竜の真っ白なぬいぐるみに変身できるのです。 頭にある、透き通ったエンジェルリングがチャームポイントです。 「…ああ…」と言って、動物の妖精たちは、サンサンではなくサンドルフに大注目しています。 「よくわかったね」とサンドルフが言って、冗談で威嚇するように大きな口をあけると、「ひぃ―――――っ!!」と言って妖精たちはその場で頭を抱え込みました。 「そんなに怖いのかなぁー…」とサンドルフが言うと、「怖いわよ…」とサンドルフの仲間のセイラとカノンが同時に言いました。 「僕は勇者で、動物の心も、魂のないものの心までわかるんだよ。  だからここでテストをします。  みんなはそのままで動かないで欲しいんだ。  あ、もちろん、痛いことやひどいことはしないよ。  抱きつくだけだから」 動物の妖精たちは、サンドルフを信じたようで、頭を抱え込むしぐさはやめて、ごく自然に座り込みました。 サンドルフたちは動物の妖精たちに抱きつきながら、その心を読み取りました。 そしてそのついでに、サンサンが癒やしを流しています。 二人に抱かれた動物の妖精たちは恍惚の表情に変わりました。 そして、二人に向かって涙を流し始めました。 「みんな辛かったんだよね。  でも、もう大丈夫だ。  ここでやさぐれてないで、  ご主人様にしたい人のところに行っていいよ」 動物の妖精の半数は、サンドルフたちに頭を下げて消えました。 もう半数は、サンドルフだけでなく、カノンとサランにも寄りそったのです。 そしてサンサンにも、かわいらしい小鳥らしき妖精とネズミらしき妖精が寄り添いました。 サンサンは無条件で、このふたりを雇うことに決めたようです。 「やっぱり私には来てくれないのね…」とセイラは言って落ち込みました。 セイラ自身が妖精と認識されているので、特殊な妖精しかセイラには寄り添いません。 よってセイラは、「ご主人」と呼ばれるのではなく、「姐さん」と呼ばれています。 新しい主人に寄り添った動物の妖精たちはみんな採用されて、喜びの涙を浮かべています。 「あまり張り切り過ぎないようにね。  ご主人に叱られちゃうからね」 サンドルフが言うと、誰もが笑みを浮かべて、サンドルフに頭を下げました。 妖精カノンは消えてどこかに行ってしまいましたが、これでよかったんだと、サンドルフはうれしく思いました。 サンドルフたちは仲間の保奈美の魂に飛び込んで、サンダイス星に戻りました。 特に変った様子はないようで、みんなが口々に、「おかえりなさい」と言っています。 「カノンちゃん、気に入った人がいたんだなぁー…」 サンドルフが言うと、「なんだ、カノンにフラレたかっ!!」とベティーが大声で言ったところで、その姿は消えました。 「ベティーさんの方が、カノンさんよりも重症だよ…」とサンドルフは唇を尖らせて言うと、仲間のカノンは腹を抱えて笑い始めました。 この星では相思相愛でないと、この星から追い出されるシステムを採用しているのです。 『ご主人…』と念話が入って来ました。 「あれ? カノンちゃんっ!!」とサンドルフが叫ぶと、この場にいる全員がサンドルフに大注目しました。 『探したのだが、見つからない…  俺の、ご主人…』 「へー、どんな人なの?」 『あ、いや…  特定の者ではなく、俺が仕えたいと思った主人だ』 「そうかあー…  でも、ひとりじゃさびしいよね?  そうでもないの?」 『あ、まあ…  今まではやさぐれてはいたが、大勢いたからなぁー…  さびしいと言えばさびしい…』 「しばらくはじっくりと探すのもいいんじゃないの?  きちんと内面まで探らなきゃ、また失敗しちゃうよ」 『…あ、ああ…  そうすることにする』 妖精カノンからの念話は切れました。 サンドルフは少しさびしい想いがしましたが、妖精カノンが真に心を開くまで待とうと思ったようです。 「雇うって言ってあげればいいのにぃー…」とサンサンはふたりの妖精と仲良く戯れながら言いました。 「雇ってくれと言ってくるまで、僕は待つから」 すると、サンドルフに例の心のざわめきがあり、自分の魂をのぞくと、申し訳なさそうな顔をした妖精カノンがいました。 『正式な入り口から来たんだね』 『あ、ああ、まあな…』 『きちんと願い出ないとずっとこのままだよ』 サンドルフが言うと、妖精カノンはかなり慌てて、『雇いやがれっ!!』と大声で叫びました。 『うん、いいよっ!』とサンドルフは言って、妖精カノンに手を差し伸べて、魂から引き上げました。 「あはは、すごく立派だっ!!」とサンドルフと同じ背丈ほどある妖精カノンをサンドルフは抱きしめました。 妖精カノンは何も言わずに泣いているだけでした。 ―― おわり ――
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