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絶命間近のサンダルと発泡酒のロング缶が、ツクヨミさんの標準装備だった。
私が後ろに尾いたとわかると、ツクヨミさんは慌てて缶をコンビニ袋に戻した。右手に提げたビニール袋に青い缶が隠れるとき、楕円形の飲み口から少量の中身が飛んだ。
「やあ。また一緒になったね」
会話の始まりはいつも穏やかな彼の挨拶だった。疲れ気味で、それでも優しい声。紡ぎ出される大人びた夜想曲は、帰宅までお酒を我慢できない人のものには聞こえなかった。
「ツクヨミさん」
私はスクールバッグを抱え直して、彼に追い付こうと小走りする。中学生の頃だ。私はツクヨミさんのことが大好きだった。
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