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オッカンの宿
珊瑚環礁の真ん中だけ古生代の山脈が隆起してできた富富島には
沖縄に来ると必ず宿泊する比喜婆さんが経営しているオッカンの宿がある
牛と孫4人と畑を耕しながら海と星に囲まれ
て静かに暮らしている。
一昨年、オッカンの宿に泊まって時に参加した
月渡りの儀式が忘れられない、
水牛で屋台を引いて白い海岸線の向こうにある
神様の島まで果物や野菜を届けるのです。
月明かりの白い波うち際を波の音とサトウキビで作られた横笛が
幻想的な星の世界を作り出し、
牛がウモーと鳴くと水平線の辺りで波が盛り上がる
七頭の牛が連なって北極星に向かってゆっくりと
歩いていくのです、
2番目の牛車には若い娘が芭蕉布を羽織って座り
その斜め後ろで一年間徳を積んだ老人が歌い始めるのです
「月夜に漕ぐ船はユー
ニヌ星が頼りにー
バヌナセル アボヤ
バンドウ ミャーテクー」
そして真っ黒な海は南十字星と大マゼランの下で
海はザザーンザブーンと波音を繰り返すのです、
神様の島に着くと大浜の奥に津波で打ち上げられた
大石の所まで進むのです、時刻を見ると牛の刻
牛車を降りて今年収穫した野菜や果物を大石の上に
積み上げると
若い娘が星を見上げてこう歌い始めます
神様に授かった子供が
大きくなりました
神様に授かって
幸福になりました
これからはこの子の
栄華が続くように
守ってください、
ニヌバフシ ミャーテイ
ユルパラス フーニャ
ニヌバフシ ミャーテイ
ユルパラス フーニャ
この子が健やかに
育つ様に 守ってください、
そうすると星々は輝き
海はわかりましたと応える様に
波音をたてるのです、
この幻想的な世界で一晩過ごし
一夜明けたら供物の一部分を牛の屋台にまた積んで
村に戻り、神様の使いなった33人が村人に供物を配るのです、
村人は神に捧げた供物を食べる事で残りの季節を乗り越える
力を授かるのです、
33人は次の祭りまでは神の使いとして神事に従事し身を浄めて生活する事になるのです、
月渡りの儀式に参加してから、
私は毎日、月を見て暮らすようになった、
それまでは毎日の仕事に追われていたのに少しずつ心に余裕が持てるようになった、
人間関係も上手く回るようになり、
仕事も余裕を持って取り組み、
成績もだんだんよたくなった、
今から思えばこの儀式に参加したせいかも知れない、
都会とは違う時間軸で動く世界を経験して
仕事に追い詰められる感覚が
少なくなったのだ、
気分が変われば仕事も
楽しく取り込める事も体験した、
この二年で気がつけば給料も上がりこうしてまた富富島に来る事ができた、
不思議ではないがめぐり合わせが良くなって来たような気がする
比喜婆さんは元気なのだろうか?
もう80は回っているので少し心配だ
富富島は岩垣島から離れているが畜産と農業と観光で暖かい季節の間は観光客でずいぶんと賑わっている。
新森花子の歌のようにざわつくサトウキビ畑の手前にオッカンの民宿はある
例に漏れず沖縄石灰岩を積み上げた塀は700坪程の敷地を取り囲んで玄関の前の門にはシーサが客を睨むように飾ってある
門の中には椰子の木と芭蕉の木が生えている、
会社の帰り道で見る月の高さに椰子の実が三個程、実をつけている、
私はきっと月を見て椰子の木を思い出していたのかも知れない、
その向こうには沖縄の青い空
白い漆喰で堅められた赤い瓦
その横にはハイビスカスの真っ赤な花が咲いている
屋根瓦を見ていると後ろから人の気配が
「吉岡さんおかえり・・・・」
振り返ると綺麗に日焼けした女性がニッコリ微笑んで立っている、
「アッ、アの時のお孫さん、」
そこには2年前とは見違える程綺麗になったお孫さんが立っていた、
「予約が入ってから楽しみにしてお待ちしていました・・」
「大きくなったね・・」
「奈々枝お婆さんは・・元気・ですよね!」
「ハイ・・昨日から吉岡さんの大好物を作るんだって言って張り切っているんですよ・・」
「本当ですか?」
「吉岡さんが来てからお客さんが増えて助かったんですよ。」
成る程、余り話題のない私は飲み会の旅にこの宿の話をして毎日ブログの
更新していた様な気がする、
「去年もう一棟立てたんですよ・」
邪気を祓うヒンピンの向こうを見ると玄関のなっかた家に受付の玄関ができてその奥には2家族は余裕で泊まれそうな沖縄伝統の家屋が建っている
「繁盛してそうですね・・・」
「チェックインしたら・・すぐお風呂にしますか?」
「そうですね、少し 海岸の方を散策して来ようと思います、」
「じゃあ、それまでには夕御飯の支度が出来てるので、
お楽しみに!吉岡さん」
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