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クワンソウ
海岸までは白い珊瑚の道の両脇に琉球珊瑚と石灰の塀が緩やかに
曲がりながら続いている、
沖縄は台風の通り道なので家の周りもサトウキビ畑も防風林で
囲まれている、
戦前は琉球松が砂浜を埋め尽くしていたらしいが松ヤニを取る為に
伐採されて少なくなってしまった、
今ではフクギやモクマオウ、ハイビスカスが植えてある
本土と同じ様な天女伝説も沢山残されている、
例の松の木に天女の羽衣が引っかかって服をなくして島で
暮らしてしまうと言う昔話が沢山あるのだ、
松の防風林ならその話がよく似合う
まあ、ハイビスカスでも似合わなくは無いかも知れない、
途中すれ違う観光客は3組に1組はザワワーザワワを口ずさんでいる
タイムマシンの様なこの歌は
まだ戦後を引きずり続けている気配を感じさせる
モクマオウの木の向こうのサトウキビは今でも悲しい胸騒ぎを
響かせているのである、
福木の並木の向こうにはもう海辺が見えている、
真っ白な砂浜と海はエメラルド色、広い青空の下のは小さな島が並んでいる、
心が止まって、
自分が白砂のように漂白されように感じる、
景色が後頭葉に焼き付いてしまった、
時間が止まったような景色だ!
多分何千年も
変わらない景色なのだろう、
足元にはカニが器用に横歩きで逃げて行く
心が引っ張られるような引き波に少し目眩を感じてしまった、
人間がいない世界ってこうなんだな
沖縄はまだ自然の脅威の方が人間の文明より勝っている事を感じられる島だ
物見遊山で離島に住み着いた人々が一発の台風で撤退しまう事がよくあると聞いた事がある、
洒落たペンションやカフェを風や波がヒッペガシテ行く
大風や大波が人間の生活を左右する、
結局人間は自然にしがみつくしかないのだ、
暫く島の景色を見ていると
私の後ろにある大きなガジュマルの樹が大きく
影を伸ばして僕を包んでしまった、
見上げると人間の脳みそのような枝振りが僕の心に話かけて来た、
「人間はなんで急いでいるんだ、空も波も逃げないし、
太陽も月も毎日昇る、お前を急がせているものは何だ」
「人は歯車になっちまってるから答えられないんだ、人間より長生きなお前の方が知っているだろう、教えてくれ!」
大きなガジュマルの木は
黙ってしまった、確かに人間程不可思議な行動を取る生き物はいないだろう、
「人間は追い立てられているんだ!」
「誰に!」
「みんな何者かに
追いたてられているのだ!」
「弱者も強者も社長も社員も皆だ!」
「誰も見たこと事のない何者かに追いたてられている!」
「何でそんなに逃げる様に
生きている!」
脳みそのような大きな枝振りのガジュマルの木は言った、「俺たちは何百年も自分の運命を受け入れて生きている、
お前達は何故それが出来ない!」大きな太陽が真っ赤になってガジュマルの影は消えた、不思議な事に影が夕日に消されると
ガジュマルの木は何も
話さなくなった。
暫くすると大きな猫がガジュマルの樹から飛び降りてタコの木の向こうに消えて行った、
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