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「陽王は王様みたいなもんなんだな」
「王様?」
「うん、責任者というか一番偉い人。施政者っていうんだっけ」
陽王は食事もお風呂も終えた頃に帰ってきて、簡単なつまみとワインを飲む。その横で碧は本を読んだり、日記を書いたり(文字の練習のため)している。テレビもネットもない世界では時間がゆっくり進む。
「一番偉い……わけじゃない。ただ、その役職なだけだな」
「陽王が役職なんだっけ? 夜都とか美海もそうなんだろう?」
「随分勉強しているようだな。夜都も美海も褒めていた」
することがないのだから仕方がないと思いながら、日記を書く。
「見せて見ろ」
陽王は碧の日記を取り上げた。
「おい、そういうの止めてくれよ」
別に日記に変なことは書いていない。食べたものと読んだ本の要約くらいだ。でも日記を勝手に読むのは酷いと思う。
「そういうの?」
「日記を勝手に読むことだよ!」
取り返してバン! と閉じた。
「だが、食事と本の内容しか書いてないぞ」
「それでもだ」
夜都には文字があっているかどうか見せているので今更だが、個人的なことを見られるようで陽王には見られたくないと思ったのだ。
「そうか、すまなかった」
陽王は偉い人で、傲慢に見えるが謝ることができる人のようだ。父とは違うんだなと思った。碧の父は、偉そうで傲慢で碧や母のことを下僕のように思っていたから。
「いいよ」
「そなたは怒っていてもすぐに許すのだな」
馬鹿と言われたような気がした。
「どうせ、俺が怒っていても陽王は気にしないだろう!」
相手が気にしていないのに怒りつづけてもむなしいだけだ。
「また怒らせてしまったか……。素直で人を許すことができることはそなたの美点だと思ったのだ。それに……私は気にしているぞ。雨が降り続いては作物も育たないからな」
一瞬解れた心が、またカチカチに固まっていくのを碧は止められなかった。
どうせ作物のためだろうよ。俺を抱くのも。俺に優しくしてくれるのも。
激しく抱かれた日の朝、陽王は少しだけゆっくりしていく。碧の体調を気遣い、風呂に入れてくれたり食事を寝台まで運んで一緒に食べてくれたりする。新婚さんや熱々の恋人のように扱うのは全て雨のためだ。
「アメフラシ……だもんな」
きっと、代々の神子達もこんな風にもてなされていたのだろう。たった、二、三年だけだ。我慢して機嫌をとればいいのだろう。
「雨……?」
ポツポツと降り始めた雨に陽王が不思議そうな顔をする。
「雨が降ってるから、今日は抱かなくていいだろ」
香が焚かれているから、抱かれる日だったはずだ。
「碧、雨が降っても抱くぞ」
「あんたは雨を降らすために抱いているはずだ。それならもういいだろ!」
碧の美点だと言われて嬉しいと思った気持ちが今は雨模様だ。どんよりとした心と同化して遠くからゴロゴロと雷の気配もする。
「駄目だ」
「どうして!」
碧は近づいてくる陽王を睨みつけた。
「そなたを抱きたくて馬鹿みたいに積み上げられた執務をこなしているのだ。それを無に帰すつもりはない」
「抱きたい?」
「そうだ。この小さな唇を啄み、柔らかな髪を指先に絡め、中に挿りたい」
王者のような顔をしてそんな言葉を碧に囁く。
「い、いや……だ」
慣れてきた身体は簡単に燃え上がる。そっと口づけられて、腰を掴まれただけで吐息が漏れた。
「本当に嫌なら真剣に拒んでくれ」
両腕を後ろにまわされて、抱き上げられた。
「嫌……だ」
優しい愛撫も熱い視線も、ただ欲と義務なのだと思うと雷が落ちた。
「碧、碧!」
打ち付けられる灼熱の棒は、もう痛みなどなく受け入れられるようになった。
「ひお……ぅ、そこ、駄目だっ」
打ち付けられるだけでも駄目なのに、陽王は奥を突くタイミングで碧の胸を摘まむ。
「駄目なのは、胸か? それとも……」
「ああっ! ひっぅ……ア……」
どっちも無理だ。気持ちが良すぎて頭の奥がジンッとしびれるような感覚がする。
「中が痙攣しているぞ」
達ってるのに陽王は加減などしてくれない。
酷い男だと思う。こんなに酷いのに、どうして陽王の言葉で一喜一憂してしまうのだろう。
「あ……ん……」
ドクドクと精液が腹を満たす感覚に、碧は小さく悲鳴を上げた。
陽王のものを一滴も逃すまいと身体が貪欲に搾り取ろうとするのも、満足げに碧を抱きしめる陽王の体温にも、碧は慣れたくないと思った。
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