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月明かりの誓約
「あははははは!殺してやる!感謝しろ!」
私は月光を後頭部に受けながらそう呟く。全てが力を貸してくれるようだ。何もかもが明瞭に見える。
「ヒッ……あぁああぁあ……!」
冷たいモノで頬を撫でてやると、そいつは大層耳障りな鳴き声を吐いた。
うるさい。こいつは殺されるべきゴミクズ。私はそう信じてやまない。だってこのゴミは彼女に無許可で触れたのだ。これからもどうせ彼女以外にもそういう事をするのだろう。生かしておく利点がない。
うるさいので思い切り腹を蹴ってやった。無様にゴミは呻いて転がる。
人殺しがこの社会で認められていないのは知っている。私だって多分“普通”に収まる環境で生きてきたんだ。それくらい分かる。
私は欲望のままにナイフをゴミの腹に突き立てた。何度も何度も何度も。
あぁなんて美しい。社会のゴミがぐしゃぐしゃに始末される姿を見て私は高揚している。
だって社会が制裁を加えられないこのゴミを、私がこの手で消せるなんてなんて素晴らしい。
あぁそうだ。掟など“日常生活”を円滑に運用するためだけのもの。だからイレギュラーなこれは“日常生活”じゃない、だから許される。
どうも土に染み込んだのか、思ったより血溜まりは広がらなかった。
面白くないので足で転がしてやると、赤くてぐちゃぐちゃの土が見えた。
触れてみるとなるほどぬるい。ゴミを始末した証。その温もりさえ愛おしかった。
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