2:かみさま

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2:かみさま

 その少女は、夏だった。  透き通るように白い肌、入道雲よりも白い半袖のワンピース。やや茶色がかったセミロングの髪は、ひまわりの小さな飾りがついた髪留めで二つにまとめられている。  立ち上がって、改めて少女をよく眺める。背丈は僕の首より下、一五〇センチもないほどで、顔立ちもみるに中学生くらいだろうか。僕が見ている間、少女はニコニコしながら僕を見つめ返していた。 「えっと――」 「久しぶりだね!」  とりあえず何か言おうと思って口を開いたが、割り込まれた。  久しぶり、と少女は言った。僕の名前を知っていることも考えると、どうやら僕とこの子はいつかどこかで会ったことがあるらしい。だが、ついさっき夢に出てきたということのほかに、彼女と会った記憶は……。 「あー、やっぱり覚えてないって顔だ。夢にまで出てあげたのに!」 「出てあげた……?」  まずい、彼女が口を開くたびに疑問が増えていく。まだ夢の中なのだろうか、とまで思わされる。 「ほら、昔わたしと一緒によく遊んでたでしょ。アキトくんのおじいちゃんとおばあちゃんのお家で」 「……親戚の誰かだっけ?」 「ちっがーう! ルリ姉だよ、ルリ姉。ホントに覚えてないんだね! そんなんだから、わたしは……」  ルリ。名前を聞いても、怒りと寂しさが入り交じったような顔を向けられても、なお思い出せなかった。  ただ、さっき見た夢はどうにも懐かしいような気がして、はっきりとは覚えていなくても記憶の片隅には引っかかっているのかもしれないとは思えた。 「うーん……とにかく、僕と君が知り合いらしいことは分かった」 「分かればよろしい」 「うん。で、いくつか聞きたいことがあるんだけど」 「何でも聞いて!」  胸の前で両手をグーにしながら、ルリと名乗った少女は明るい笑顔をこちらに向ける。感情豊かな子だ。 「まず一つ目、ここは民宿なんだけど、どうやってこの部屋に入ったの? 二つ目、どうして僕がここに来たことが分かったの? それから三つ目、『夢に出てあげた』ってどういう意味?」  いっぺんに全部言ってから、中学生くらいの子に対する加減を間違えたことに気づいた。三つも質問をぶつけられては、困ってしまうかもしれない。  ……と思ったのだが、当の本人はそのニコニコをニヤニヤに変えて、うんうんと頷いていた。 「それはねぇアキトくん、お姉さんの正体が分かれば全部解決するよ」 「正体?」  ルリは両手を後ろで組んで、少し横を向いて片目をつぶり、さも意味ありげにこちらを見上げて、こう言った。 「わたしね、神様なの」  疑問がもう一つ増えた。
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