7

1/1
前へ
/16ページ
次へ

7

 いかにも古そうな軽のワゴン車に乗る。  なかなか扉が閉まらず苦戦していると、 「古いから、力いっぱい閉めないとだめなんだよ」  と言われ、思いっきり引っ張る。扉はものすごい音を立てて閉まった。 「今度は壊す気かよ」  また笑われた。  車の中で流れていたのも、もちろん南米の音楽だった。男の子は楽しそうに手でリズムを取りながら、そのうち手さげ袋の中から笛を取り出し、吹こうとする。 「今日は兄ちゃんがいるからだめだ」  マスターが言うと、黙って笛を袋に戻した。 「別に、いいですよ。僕の車じゃないし」 「おお、そいつはすまねえな。でも、ぼうずに世間の常識を教えてやらないといけねえんだ、親としては」 「まだ子供じゃないですか」 「いつまでもあると思うな親と金っていうじゃねえか。世は無常なんだ、呑気なことばっか言ってらんねえよ」  見かけによらず、実はけっこう真面目な人なのかもしれない。子供も大人しく言うことを聞いていた。 「それにしても、あんたも変わった人だよな。えらく神経質そうかと思えば、こうして知らない人の車にほいほい乗っっちゃって。高校生にもなれば誘拐されないってか」  そんなこと、ちっとも考えていなかった。言われてみれば、知らない人達にほいほいついて行くなんて。子供も一緒なので警戒心が緩んでいるとはいえ、普段の僕はするはずもないことだった。 「誘拐されたんですか? 僕」 「さあな」  もし僕が誘拐されたら、どうなるんだろう。  単純に考えて、もう学校へ行かなくてよいのだろう。今日一日、どうやって時間が過ぎるのをやりすごせばいいのか、帰宅してから何をすればいいのか、卒業したらどうするか、そんな些末なことは一切考えなくてよくなるということか。どう考えても冗談だろうけど、もし本当だったらと思うと、くだらないと思いつつ、色々と考えが浮かんでしまう。  しかし、誘拐された可能性があるにせよ、この人たちに着いて行くなら面白そうだ。漫画でよく読んだ、秘密基地みたいなものを想像してみる。僕の家から身代金なんて取れるわけないんだし、きっと僕も仲間に加えられるのだ。  今いるところ以外へ行けるのなら、もうどうでもいい。今こうして、見たこともない街並みが流れていくのを見ているだけで、こんなにわくわくしているではないか。それに、もう少しの間、この音楽を聴いていたい。「着いたぞ」と言われるまで、その毎日見ていたはずの景色に全く気付かなかったのだから、自分でも笑ってしまう。そこには、僕が通っている高校があった。 376f150d-3142-4f00-b992-0382e3cbd173
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加