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7
いかにも古そうな軽のワゴン車に乗る。
なかなか扉が閉まらず苦戦していると、
「古いから、力いっぱい閉めないとだめなんだよ」
と言われ、思いっきり引っ張る。扉はものすごい音を立てて閉まった。
「今度は壊す気かよ」
また笑われた。
車の中で流れていたのも、もちろん南米の音楽だった。男の子は楽しそうに手でリズムを取りながら、そのうち手さげ袋の中から笛を取り出し、吹こうとする。
「今日は兄ちゃんがいるからだめだ」
マスターが言うと、黙って笛を袋に戻した。
「別に、いいですよ。僕の車じゃないし」
「おお、そいつはすまねえな。でも、ぼうずに世間の常識を教えてやらないといけねえんだ、親としては」
「まだ子供じゃないですか」
「いつまでもあると思うな親と金っていうじゃねえか。世は無常なんだ、呑気なことばっか言ってらんねえよ」
見かけによらず、実はけっこう真面目な人なのかもしれない。子供も大人しく言うことを聞いていた。
「それにしても、あんたも変わった人だよな。えらく神経質そうかと思えば、こうして知らない人の車にほいほい乗っっちゃって。高校生にもなれば誘拐されないってか」
そんなこと、ちっとも考えていなかった。言われてみれば、知らない人達にほいほいついて行くなんて。子供も一緒なので警戒心が緩んでいるとはいえ、普段の僕はするはずもないことだった。
「誘拐されたんですか? 僕」
「さあな」
もし僕が誘拐されたら、どうなるんだろう。
単純に考えて、もう学校へ行かなくてよいのだろう。今日一日、どうやって時間が過ぎるのをやりすごせばいいのか、帰宅してから何をすればいいのか、卒業したらどうするか、そんな些末なことは一切考えなくてよくなるということか。どう考えても冗談だろうけど、もし本当だったらと思うと、くだらないと思いつつ、色々と考えが浮かんでしまう。
しかし、誘拐された可能性があるにせよ、この人たちに着いて行くなら面白そうだ。漫画でよく読んだ、秘密基地みたいなものを想像してみる。僕の家から身代金なんて取れるわけないんだし、きっと僕も仲間に加えられるのだ。
今いるところ以外へ行けるのなら、もうどうでもいい。今こうして、見たこともない街並みが流れていくのを見ているだけで、こんなにわくわくしているではないか。それに、もう少しの間、この音楽を聴いていたい。「着いたぞ」と言われるまで、その毎日見ていたはずの景色に全く気付かなかったのだから、自分でも笑ってしまう。そこには、僕が通っている高校があった。
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