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プロローグ
小さい頃は雨が嫌いだった。
退屈で、憂鬱で、窓ガラスを伝っては流れていく雨を窓辺で睨むように眺めていた。頬杖を突いていた手の跡が頬にくっきりと残るまで、ずっと。
あんまりにも雨が続くから、俺はてるてる坊主を作ってあげることにした。
ティッシュを丸めて、ティッシュを被せて、輪ゴムで首を縛る。マジックでニコニコ顔を書き込むと、自分なりに上手くできたような気がした。頭にも輪ゴムをテープで貼りつけて、窓辺に寄せた椅子に乗ってなんとかぶら下げられた。未就学児童のすることだ、今思うと随分お粗末な出来だった。
俺の作ったてるてる坊主の効果はまるでなく、翌日の七月七日も容赦なく雨が降った。
せっかく作ったてるてる坊主のご利益のなさに、俺は窓辺で泣いていた。メソメソ泣くようなタイプじゃなくて、それは盛大に声を大にして。
そうしたら、四つ年上の兄貴が来て、慰めるどころか大笑いした。
ティッシュに輪ゴムの安上がりなてるてる坊主で雨がやむなんて、そんなことを思っていた方が笑えるとか、平然と言ってきた。
頑張って作ったのに、ひどい。
その程度の頑張りに望むものが大きすぎたのか。
そう、世の中はそんなに甘くない。
小さな祈りは叶わない。
これは俺、藤倉翔がそれを知った、他愛のないエピソード――
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