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突然、スマホが鳴った。
離島の小学校に赴任してから一週間、一度も鳴ったことがないので驚いた。
急に、遠くへ行くと告げた僕に愛想を尽かし、みんな僕から去って行った。
友達はおろか恋人さえ連絡をくれなくなった。
それでも習い性で、毎日、スマホを充電しては持ち歩いていた。
慌ててメールボックスを開く。
送信者は「ゆみ」。
送信日は……。なんだ、僕が赴任したその日じゃないか。
一週間、着信音が鳴らないから、別れ際に言われた「待っててなんか、やらないんだから!」っていうセリフを本気にしていた。
この島でスマホのアンテナが立つ場所は少ない。緊急事態には無線を使うほどなのだ。
ゆみがせっかく思い立ってメールをくれたのに、何日も受信できなかっただけなんだ。
急いでメールを開く。ゆみからの言葉をむさぼるように読む。
「昨日はゴメン。
でも、急に転勤決めて、
急に行っちゃうんだもん。
ひどいよ。
島の天気はどうですか?
小学校の子はみんな元気?
今日はきれいな満月です。
同じ空を見たいので
写真を送ります」
急いで返事のメールを送ろうとしたが、アンテナが一本も立っていない。
この近辺で受信したのだから、このあたりで送信できるはずだ。
携帯を右手に持ち、上へ向けたり、下へ向けたり。
右手を空高く差し伸べて、やっとアンテナが立ち、送信できた。
なんだか、バスケの試合でゴールを決めたような気分だ。
返信できたと安心して初めて、添付された写真を見ていなかったことに気付いた。
あわてて画面をスクロールする。
よく知っているビルの屋上からの夜景だった。
たった一週間、街を離れただけなのに、懐かしくて涙が出そうになる。
ゆみと二人、デートのたびにここへ行った。
何があるわけでもないけれど、涼しい風と広い空を二人で並んで見つめていた。
ふと、違和感を覚える。
よく知った景色だけど、見慣れた景色と何かが違う。
じっくりと写真を見つめた。
たびたび画面が暗くなり、よく見えなくなる。そのたびスマホの画面をタップする。
ああ、そうだ。フェンスだ。
ビルの屋上には人の背丈より高いフェンスが張り巡らされていて、いつも僕らはフェンス越しに空を見ていた。
この写真には、そのフェンスがない。
ふと、可笑しくなった。
ゆみは、うんと背伸びして右手を目いっぱい伸ばしてこの写真を撮ったのだろう。
きっとそれは、さっき僕がアンテナを探して手を伸ばしたポーズと似ている。
気付けば陽は傾いて、空は群青に染まっていた。
その群青を切り裂くように少し細くなった月の銀色の光が僕を照らす。
どんなに遠くに離れていても同じ色を見ているよ。
ゆみにそう伝えたくて。僕は目いっぱい右手を伸ばすと、美しい月を写真に納めた。
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