1-1.木の風使い

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二〇一二年九月 美和(みわ)大学の旧特別棟。 大学一年生の星見爽介は一人の男を待っていた。 建物は太陽に照らされている。 九月の中旬とはいえ残暑の厳しい昼下がり。 赤みがかった茶髪の前髪が汗で張り付いて鬱陶しい。 「……これでよし」 爽介はヘアピンを取り出して、張り付く毛束をひねって後ろに留め、ポンパドールにした。 美和大学は私立の文系大学だ。県郊外にあるが、学部の数が多く学生の数もそれなりにいる。 大学の近くは温泉宿などの観光地もあり、田舎でありながら栄えている学生街なのだ。
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