3-2.親友と楓葉とリボンの記憶

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「どうして?」 しかし、辞めるとまで言う琴を慰めたり励ましたりくらいは自分にできるかもしれない。 その思いから、勇気を出して理由を聞いてみた。 「独りはもう、しんどいよ」 楓は、励ましの言葉も、慰めの言葉も言えなかった。 自分はピアノが弾けないから、聞くことしかできなかったから、琴を一人にしてしまった。 琴の孤独に気付けず、何もできなかった楓は「……そう」とただ相槌を打つことしかできなかった。 むしろ、自分が「琴と離れたくない」と引き留めたせいで父と引き離され、琴は孤独になったのではないか。 琴の孤独について深く追求するのは、楓にとっても罪悪感を重たくするだけであった。 琴はその日、最後に一回だけだからと楓にピアノを聴かせることにした。 こんなにも苦しくて、孤独なら。 音楽はもう辞める。 それでも、どうしても楓に聴いてほしい曲があった。 楓は苦しみながら音楽を奏でる琴を見るのは嫌だった。 聴いてほしいと言われても最初は断ろうとした。 それでも、琴のピアノを最後に聴くことで罪滅ぼしになるなら。 そんな思いで琴の家へ向かった。 最後に弾いたピアノの曲は、父の作曲した曲だった。 楽譜のタイトルには「オーバーラン」と記されていた。
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