3-2.親友と楓葉とリボンの記憶

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八月の下旬。吹奏楽コンクールが始まった。 部員たちは集合場所に集まる。 そして、ステージに立つ演奏着を着た部員には安全ピンの付いたリボンが配られた。 それを受け取った琴はリボンの安全ピンを演奏着の左肩につけようとした。 が、荷物が邪魔して上手くいかない。 「貸して」 手を差し伸べたのは楓だった。 制服を着た楓の左袖には腕章。 美和大学附属中学・高等学校吹奏楽部の裏方としての証だった。 「あ、うん……ありがとう」 楓の腕章をみて、ばつが悪そうに琴はリボンを渡した。 なんでこのリボンを付けるのが私なんだろう。 楓の方がよっぽど真面目だったのに。 そんな琴の気など知る由もなく、楓は琴のリボンを静かに着けた。 「……琴、頑張ってね」 演奏着に付けたリボンにおまじないのように呟いた。 そこに、悔しさがなかったのだろうか。 琴は楓になんと声をかけていいのか分からなかった。 それでも、 「楓が、聴いてくれているから、大丈夫だよ」 と言って笑った。
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