3-2.親友と楓葉とリボンの記憶

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男子だから。 と言う理由で楓は舞台裏から打楽器のセッティングを行う係となっていた。 連盟のスタッフと一緒に打楽器を運び、舞台上に配置する。 約三分の間に行われる作業はスピードを求められた。 なんとか三分間でセッティングを終えた後、舞台裏に戻る。 その時、琴とすれ違った。 思わず「琴」といつものように呼び止めそうになったが、ここはコンクールの舞台上。 楓はあわてて口を閉じた。 そんな楓を琴は見逃さなかった。 柔らかい笑顔で楓の方を一瞬だけ向いた。 孤独で壊れそうになっていたピアニストはもういない。 彼女は笑顔のパーカショニスト。 楓も、笑顔を返して頷くと、安心して舞台裏へと下がった。 学校名と演奏する曲名、指揮者の名前が告げられると舞台がぱぁっと明るくなった。 その様子を真っ暗な舞台裏から眺める。 眺めることしかできなかった。 演奏がトランペットのファンファーレと駆け抜けるようなシロフォンと共に始まる。 木管群のしっとりとした第一マーチが展開される。 出来る事なら、あのメロディを自分も奏でたかった。
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