3-2.親友と楓葉とリボンの記憶

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それから、数か月間。 基礎練習を重点的にサウンドづくりを強化した。 年末。 生徒の熱意にあてられたのか、顧問から自由曲の楽譜が例年よりも早く配られた。 『楓葉の舞』 親友の名前が入っている題名に琴は、少しだけはにかんだ。 中等部最後のコンクールに向けての練習が始まった。 今までの自由曲よりも格段に難しい。 皆苦戦した。 それでも、諦めない。 できるまで練習した。 目標は支部大会なのだから。 暦の上では春、しかしまだ肌寒い空気の季節になり曲もある程度形になり始めた時だった。 「楓は、さ。高等部に進学するんだよね……」 「一応、な」 三年生を迎えようとし、進路希望調査が始まった。 ほとんどの生徒が美和大学附属高校、所謂、高等部に進学する。 楓もその一人だった。 「俺は、高等部でも琴と演奏したい。琴と、美和高校の高等部で、支部大会……いや、全国大会まで行きたい」 中等部で過ごすのは今年が最後だ。 しかし、高等部でも琴と、もう三年吹奏楽部に所属すれば、全国大会だって夢ではない。 楓には自信があった。 キラキラと輝く瞳で夢を語る楓に対して、琴は黙り込んでいた。 そして、ようやく、「あのね」と言いづらそうに口を開く。 「私、綾峯高校にスカウトされてるんだ」
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