3-2.親友と楓葉とリボンの記憶

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「行くのか?」 「迷ってる。勿論、挑戦してみたいなって思うよ。けど、家から通うとなると遠いし、寮に入るのも、寂しいし……」 「……行かないで」 「え?」 掠れるように、絞り出された声。 弱弱しい子供のように零された言葉は確かに琴を引き留めるものだった。 琴が聞き返すと、楓はハッと我に返った。 そして、何を言っているんだろうと首を振る。 「悪い。今のは聞かなかったことにしてくれ。ただ……琴が行くなら俺も行く」 「ちょ、ちょっと待って!」 「楓は、ここで、全国に行きたいんだよね?」 「……あぁ」 少し間があったが肯定の言葉が響く。 それは、紛れもなく本心だ。 琴はそう確信した。 自分の進路を告げる前に、あれほどに目を輝かせて語った夢だ。 「琴と」なんて言っていたが、楓はきっと、「この場所で」琴と夢を叶えたいのだろう。 琴にはすべて分かっていた。 「……分かった」
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