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二人は、琴の家を出た。
随分長い時間滞在していたようだ。
空は、オレンジ色と青色のグラデーションに彩られていた。
琴の母に見送られた後、二人は琴の家から数歩だけ歩いた。
十歩ほど歩いて爽介は、ふと違和感を抱く。
「楓先輩。家、そっちでしたっけ?」
楓の実家と爽介の住むアパートは逆方向だ。
二人とも坂道を下るなんてありえない。
楓が実家に帰るのであれば坂道を登らなきゃならないはずだ。
「お前には関係ない」
「また病院に戻る気ですか?」
「悪いか」
楓は図星を指されて、爽介をぎろりと睨む。
「戻って何が悪い、琴の傍に居たいのに」と目で訴えるようだった。
「琴先輩は、お母さんが付いているから大丈夫だって分ったでしょう?それに面会時間だって……」
今からから歩いて病院に戻るとなると夜になる。
面会時間も終わっているだろう。
楓が混乱していてその事すら分かっていないのかと、爽介は思っていた。
しかし、楓の落ち着いた様子からどうやらそこまでは混乱してはいないと察した。
「分かっている。それでも──」
「それでも、行くなら俺も行く」
楓の言葉にかぶせる様に爽介は宣言した。
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