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その声は薄昏いアスファルトと、暖色に色づいた木々に響く。
「ねぇ、先輩。琴先輩は独りが嫌いなんでしょ?」
「……」
「だったら、楓先輩を一人にするわけにはいかないんですよ。俺は」
「お前は関係ないだろ」
「関係あるんですよ。だって」
爽介は練習用の鞄に手を入れ、何かを探す。
探し物はすぐに見つかり、姿を現した。
「そのスティック……」
爽介の手に握られたのは琴がプレゼントしたドラムスティックだった。
楓も、見覚えがあるものからか、すぐに気付いた。
「琴先輩、これをくれた時に「楓をよろしくね」って言ったんです。俺、琴先輩にアンタの事任されているんです。だから、アンタに付いていく」
学園祭の前に、琴に言われた言葉。
独り言のように曖昧なものだったけど。
確かめたくて聞き返してもはぐらかされた。
だとしたら本気じゃなくて、琴の気まぐれな独り言だったのかもしれない。
それでも確かに、琴は、楓を爽介に任せた。
その時は、ソロと伴奏を二人でするからだと思っていた。
その時限りのものだと思っていた。
しかし、琴が眠りについてしまい、楓が一人になってしまったとするなら、琴が望むのは──
「さぁ、好きにしてくださいよ、楓先輩。どの道を選んでも付いていきますから」
爽介が自分の代わりに楓の隣に居る事だろう。
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