71人が本棚に入れています
本棚に追加
楓は何も言わずに坂を下った。爽介はそれに付いていく事しか考えていなかった。
きっと病院に行くのだろう。そう思っていた。
しかし、向かったのは明らかに病院の方向ではなかった。
駅の方へ向かっているのかと思っていたけど、見慣れない景色。
二人はアスファルトの上を一歩、また一歩進んでいく。
「ここ、どこですか?」
何を考えているか分からなくて不安になり爽介は楓に問う。
しかし、楓はそんな爽介の問いを無視をする。
無視、と言うより「どこへでも付いていく」と言う言葉を信じて答えないだけなのかもしれない。
楓は足を止めた。車どおりが少ない狭い道路の途中だ。
この先は踏切と線路がある。
田舎特有の、不思議な空間だった。
楓は道の端でスマホをいじり始めた。
日が暮れて、紺色の景色をクリーム色の街灯が照らす。
少しだけ肌寒くなってきた。
「ねぇ、楓先輩」
それから十数分、流石に痺れを切らして爽介は二度目の問いかけをする。
スマホを見ていた楓は何かに気づいたように「そろそろだな」と呟いて、足を動かした。
楓は、線路の手前に立つと、
「お前、どこへでも着いていくって言ったな」
「えぇ」
踏切がカンカンと警告音を鳴らし、遮断機が下り始める。
それを確認すると、楓は線路に足を踏み込む。
遮断機が二人を隔てる。
楓は数十秒後には電車が通り過ぎるであろう場所に立ち、爽介の方を向いた。
「着いてこれるか?ここに?」
最初のコメントを投稿しよう!