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「着いてこれるか?ここに?」
そして、手を差し伸べて、笑顔で聞いた。
「できっこないだろう?」と挑発するように。
ワンマン電車が時速七十八キロで通り過ぎた。
楓は、伸ばした手を思い切り引かれ、線路からは外れた遮断機のすぐそばに居た。
爽介の手は震えていた。
寒さからじゃない。
この震えは恐怖に満ちていた。
「何、考えてるんですか……」
声まで震えていた。
整わない呼吸に、相当動揺していることが分かる。
爽介自身、自覚があった。
そんな爽介を横目に楓は淡々と言葉を零した。
「俺の決めた道に着いていくんだろう?」
確かに、爽介は言った。どこだろうと付いていくと。
それが天国だとしても、地獄だとしても付いていくものだと。
楓はどうしてついてこなかった?と責めるように爽介に聞いた。
「……だから、助けたんですよ」
列車が過ぎ去ろうとする線路に立つ。
これが死を選ぶ以外何があろう。
琴が暫く隣にいない世界に絶望して、そんな世界なら早く別れてしまおうと自ら命を断とうとした。
楓は、死のうとした。
それを助けるという行為は、付いていくとは真逆の行為ではないのか。
爽介の言う「だから」の意味が分からなくて、楓は「どういうことだ」と問う。
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