3-3.踏切と進む道

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「着いてこれるか?ここに?」 そして、手を差し伸べて、笑顔で聞いた。 「できっこないだろう?」と挑発するように。 ワンマン電車が時速七十八キロで通り過ぎた。 楓は、伸ばした手を思い切り引かれ、線路からは外れた遮断機のすぐそばに居た。 爽介の手は震えていた。 寒さからじゃない。 この震えは恐怖に満ちていた。 「何、考えてるんですか……」 声まで震えていた。 整わない呼吸に、相当動揺していることが分かる。 爽介自身、自覚があった。 そんな爽介を横目に楓は淡々と言葉を零した。 「俺の決めた道に着いていくんだろう?」 確かに、爽介は言った。どこだろうと付いていくと。 それが天国だとしても、地獄だとしても付いていくものだと。 楓はどうしてついてこなかった?と責めるように爽介に聞いた。 「……だから、助けたんですよ」 列車が過ぎ去ろうとする線路に立つ。 これが死を選ぶ以外何があろう。 琴が暫く隣にいない世界に絶望して、そんな世界なら早く別れてしまおうと自ら命を断とうとした。 楓は、死のうとした。 それを助けるという行為は、付いていくとは真逆の行為ではないのか。 爽介の言う「だから」の意味が分からなくて、楓は「どういうことだ」と問う。
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