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「アンタ、死ぬ気なんてさらさらなかったでしょう?」
全てを見透かしたような琥珀色の瞳で見つめて爽介は言った。
楓が命を断つなどありえない。
そう断言する爽介に対して楓は居心地が悪そうに黙り込む。
「アンタが琴先輩を一人残して逝くわけないでしょう」
分かっていた。
楓に死ぬ気なんてさらさらないと。
確かに琴は目を覚まさない。
いつ目を覚ますか分からない。
もしかしたら、もう二度と目を覚まさないかもしれない。
楓はその事に絶望して自ら命を断つか?答えは否。
琴が生きている限り楓は生き続けようとするだろう。
楓が死んでしまえばその時点で目が覚めた時に琴を一人にすることになる。
一番望まない悲劇が生まれてしまう。
爽介はその選択を楓がするとは思えなかった。
いや、絶対にしないと確信していた。
通り過ぎた電車の音は跡形もなく、静かな空間だけが二人を包んだ。
「……帰るぞ」
そっけなく、振り返って線路から遠のく。
来た道を帰っていく楓に、爽介は「はい」と返事をするも、少しだけ戸惑っていた。
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