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あの時爽介が、「楓を助ける」以外の選択をしていた場合どうなっていたのだろう。
少しだけ気になる。小さな好奇心から爽介は楓に問いかける。
「じゃあ、もしも、あの時俺が見捨てていたらどうしてました?」
「それは無いと思っていた」
「じゃあ、着いてきていたら?もしかして……一緒に死んでた?」
「……それも無いと思っていた」
あの時差し出された手を取らなかったら、手を取って線路に立っていたら。
そんな仮定を楓は考えられなかった。
「お前は、俺の思った通りの行動をとった」
差し出された手を引いて、楓を線路から引きはがす。
楓が考えていた爽介の行動パターンはただ一つだった。
普通の人間ならそんな状況の人が居たら「助ける」と答えるはずだ。けれども、実際にそんな場面に出くわしたときに、とっさに動くことはできるか?
それを爽介はした。
自分の命を懸けてまで、恐怖にまみれながらも楓を救った。
楓に死ぬ気などないと確信して、琴との約束を守るために。
つまり、それは。
「なんだ、信じてたんだ。俺の事」
カマなんてかけた割に最初から自分を救ってくれると信頼していたことになる。
爽介はようやくニヤリと笑う。恐怖はもう振り払っていた。
「別にそういうのじゃない」
「素直じゃないなぁ」
ニヤニヤとしながらしつこく食い下がる爽介に楓は苛立ち、無言で脛を蹴った。
「痛っ!?何するんですか!」
「ムカついたから」
低い声ではっきりと言葉をこぼした楓の口角は少しばかり上がっていた。
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