71人が本棚に入れています
本棚に追加
/349ページ
「さて、着きましたよ」
逢葦家までの長い上り坂を何とか超えて、なんとか到着した。
「あぁ、じゃあ」
そう言って、楓が家の門をくぐろうとした時だった。何かを思い出して、爽介は慌てて楓を呼び止める。
「あっ、楓先輩!」
「何だ」
夜もとうに更け、早く家に入りたいとことを引き留められて、すこし不機嫌になる。
それなのに爽介はすこし、気まずそうに口ごもるので、楓は「早くしろ」と急かした。
「次の練習は……」
聞きたいことは次回の練習の出欠。
なんだ、そんなこと聞かなくてもわかるだろう。
事務連絡だとしても、心理的な部分だとしても答えは決まっていた。
楓は一度ため息をついてから、はっきりとした声でで断言した。
「行くに決まっているだろ」
そこにはもう、隣に居た親友を失い悲しみに暮れるだけの青年は居なかった。
まっすぐ刺すような瞳の演奏者は、となりにいる琥珀の眼の演奏者に助言をした。
「お前も、琴の分も練習しろよ」
「はい」
楓の言った「琴の分も」。
この言葉がどのような意味を含んでいたのか。
爽介には、次の練習の時までは分からなかった。
最初のコメントを投稿しよう!