3-3.踏切と進む道

9/9

71人が本棚に入れています
本棚に追加
/349ページ
「さて、着きましたよ」 逢葦家までの長い上り坂を何とか超えて、なんとか到着した。 「あぁ、じゃあ」 そう言って、楓が家の門をくぐろうとした時だった。何かを思い出して、爽介は慌てて楓を呼び止める。 「あっ、楓先輩!」 「何だ」 夜もとうに更け、早く家に入りたいとことを引き留められて、すこし不機嫌になる。 それなのに爽介はすこし、気まずそうに口ごもるので、楓は「早くしろ」と急かした。 「次の練習は……」 聞きたいことは次回の練習の出欠。 なんだ、そんなこと聞かなくてもわかるだろう。 事務連絡だとしても、心理的な部分だとしても答えは決まっていた。 楓は一度ため息をついてから、はっきりとした声でで断言した。 「行くに決まっているだろ」 そこにはもう、隣に居た親友を失い悲しみに暮れるだけの青年は居なかった。 まっすぐ刺すような瞳の演奏者は、となりにいる琥珀の眼の演奏者に助言をした。 「お前も、琴の分も練習しろよ」 「はい」 楓の言った「琴の分も」。 この言葉がどのような意味を含んでいたのか。 爽介には、次の練習の時までは分からなかった。   
/349ページ

最初のコメントを投稿しよう!

71人が本棚に入れています
本棚に追加