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「じゃあ、琴の演奏していた箇所はどうするんだ。」
腕組をしながら話を聞いていた楓がようやく口を開いた。
琴の演奏していた箇所。
ビブラフォンのパートだ。
特別目立つソロがあるわけではないが、静かな場面での伴奏の軸はこの楽器だ。
木管群とのバランスや繊細な表現が問われる。
人に合わす演奏を得意とする琴だからこそできたパートだ。
琴と爽介以外の打楽器奏者は大学から音楽を始めた所謂初心者だ。
改めて新しくメンバーを招集してはとても間に合わない。
楓の質問に誰もが俯いた。
爽介以外は。
「それは、俺が!俺が演奏します。」
「お前が?」
「琴先輩が言ってました。この楽譜は打楽器一人でもできるオプション楽譜があるって……。」
「琴ですら諦めた楽譜だ。お前に出来るのか?」
楓は確認するように問う。
琴に出来なかった楽譜を叩けるか。
それは、爽介に琴を超えられるか?と聞いているようなものだった。
「出来ます。俺なら。」
爽介の答えはそれしかなかった。
やるしかないのだ。アンサンブルコンテストに出場するためには、自分が琴を超えるしかない。
今度は、自分が楓を、アンサンブルを救いたい。その一心だった。
「……分かった。取り合えずお前にオプションの楽譜を渡しておく。さらっておけ。」
その覚悟を楓も理解したのか、鞄から楽譜を出した。
琴が諦めた、percussionと書かれた楽譜だった。
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