4-1.一番かっこの行方

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「じゃあ、琴の演奏していた箇所はどうするんだ。」 腕組をしながら話を聞いていた楓がようやく口を開いた。 琴の演奏していた箇所。 ビブラフォンのパートだ。 特別目立つソロがあるわけではないが、静かな場面での伴奏の軸はこの楽器だ。 木管群とのバランスや繊細な表現が問われる。 人に合わす演奏を得意とする琴だからこそできたパートだ。 琴と爽介以外の打楽器奏者は大学から音楽を始めた所謂初心者だ。 改めて新しくメンバーを招集してはとても間に合わない。 楓の質問に誰もが俯いた。 爽介以外は。 「それは、俺が!俺が演奏します。」 「お前が?」 「琴先輩が言ってました。この楽譜は打楽器一人でもできるオプション楽譜があるって……。」 「琴ですら諦めた楽譜だ。お前に出来るのか?」 楓は確認するように問う。 琴に出来なかった楽譜を叩けるか。 それは、爽介に琴を超えられるか?と聞いているようなものだった。 「出来ます。俺なら。」 爽介の答えはそれしかなかった。 やるしかないのだ。アンサンブルコンテストに出場するためには、自分が琴を超えるしかない。 今度は、自分が楓を、アンサンブルを救いたい。その一心だった。 「……分かった。取り合えずお前にオプションの楽譜を渡しておく。さらっておけ。」 その覚悟を楓も理解したのか、鞄から楽譜を出した。 琴が諦めた、percussionと書かれた楽譜だった。
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