71人が本棚に入れています
本棚に追加
/349ページ
昇流と音羽と別れた後、爽介と佳貴は少しの間、二人で自転車を漕ぐ。
分かれ道に差し掛かったところで「じゃあな」と解散をしようとした時だった。
ふと、佳貴が爽介を呼び止めた。
「爽介。」
「ん?」
「君に伝えようと思っていることがある。」
「何だよ、改まって。」
暗がりでも分かる。
佳貴は真剣な表情をしていた。
いや、真剣と言うよりも、心苦しそうだった。
何かを迷っているかのような。
「……正直伝えるべきか迷っている。」
「なんだそりゃ。言いにくい事なのか?」
「うん……。」
佳貴の言う『伝えたいこと』が本人にとって口にし辛い事である以上、無理に聞くのは良くないとは思った。
しかし、もしかしたら今日の演奏の事かもしれない。
佳貴が言いづらいのは爽介に気を使っているからかもしれない。
そうだとしたら、もう一度音楽の世界に誘ってくれた親友なんだから、はっきりと言ってほしい。
「演奏の事なら何言われても大丈夫だから言ってみろって。今日の演奏が酷かったのは自覚しているし。」
「それ、なんだけど。」
案の定、今日の演奏の事だった。
佳貴は一度、咳ばらいをして間をおいて、爽介の方をじっと見た。
「楓先輩だと思うんだ。」
最初のコメントを投稿しよう!