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突然出てきたのは楓の名前。
思わず爽介は首を傾げた。
「……どういうことだ?」
「だから、その酷かった部分の事だよ。あれは、楓先輩が原因だと僕は感じた。」
「楓先輩が?」
今日の合わせが上手くいかなかった部分は、楓に原因があった。という事だ。
つまり、楓の演奏が上手くいっていないという事か。
「確かに、爽介のリズムも少しおかしかったところはあると思う。けど、それ以上に楓先輩の演奏がずれているように聞こえた。」
佳貴の耳はいい。
音を聴きとり、冷静に演奏を分析できる。
特に、音程やリズムのズレについてはわずかにズレていても、分かる。
それでも、いつも正確な演奏をする楓の演奏がズレて全体に支障をきたすなど、中々あることではない。
爽介は半信半疑だった。
「楓先輩が原因だなんて……珍しいな。」
「いや、ある意味必然だと思う。琴先輩が居なくなって、楓先輩と他の奏者を繋ぐ人が居なくなった。そう考えれば……。」
合点がいく。
琴が居なくなった事が精神的なダメージだけでない。
楓と琴の演奏はコンビネーションが誰よりも抜群だった。
楓の演奏技術も高い。
しかし、それ以上に琴は楓の演奏に合わせるのがとにかく上手い。
さらに、琴はバンドとの調和までしっかりと考えている。
バンドと楓の仲介役をしっかりとしていた。
佳貴がこの話を自分にした目的がようやくはっきりと分かった。
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