4-2.風使いを救う魔法

7/27

71人が本棚に入れています
本棚に追加
/349ページ
建物の中に入ると、薬のツンとした空気に包まれる。 病室までの足音はいつもよりも冷たく無機質に感じた。 階段を上がり、琴の眠る病室へと向かう。 二人だけの病室は、静かで、白くて、無と言う文字が似合う空間だった。 「琴、久しぶり。」 楓がふわりと優しい口調で呼びかける。 琴からの返答はない。 二度目の対面だ。 擦り傷が目立たなくなったからだろうか。 眠る顔は一度目の対面の時よりも柔らかいものに感じた。 しかし、目覚めることは無いだろう。 彼女が眠りについてもう三週間近く経っている。 植物人間となり、呼びかけにも答えることができない琴に楓は、話しかけた。 爽介は、その様子を病室のドアから見つからないようにひっそりと覗き、楓の声に耳を澄ます。 「琴、俺……吹けなくなったよ。」 吹けなくなった。 確かに楓の演奏は以前のものとは全く違うものに聴こえる。 「お前の事故の後、なんとか、自分の演奏をしようって、何度も手探りで吹いてた。」 琴が居なくても今まで通り演奏しようとしていた。 「でも、無理だった。」
/349ページ

最初のコメントを投稿しよう!

71人が本棚に入れています
本棚に追加