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できなかった。
「お前が居ないと、俺はやっぱり一人だった。誰が合わせてくれるのかがわからない」
それほどに楓にとって、琴という存在は大きかった。
寄り添ってくれる人間が居ない楓は孤高だった。
「ビブラフォンのパートのところは、星見がやっているんだけど、どうすればいいか、分からないんだ」
俺のせいなのかな。
爽介は罪悪感で一瞬胸が締め付けられる。
「アイツはよくやってくれた。俺に合わせようと、しまいには琴の演奏を完全に再現してくれた」
爽介のせいではなかった。
楓のためであったのも本人に伝わっていた。
「でも、それは、アイツの演奏じゃない。星見には……琴の真似なんかじゃなく、アイツらしく叩いて欲しいのに」
楓があの時、怒鳴った理由が分かった。
琴の演奏を真似た事が嫌だった、というよりも、爽介には爽介らしくいて欲しい。
それが楓の願いだった。
「なのに、俺のせいでアイツにそんな事までさせて、俺……」
罪悪感に溺れていたのは楓だった。
涙声が混じる
「……なぁ、目を覚ましてくれよ。また一緒に演奏しよう。やっぱり、俺、琴がいないと……」
「駄目なんですか?」
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