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二人のフレーズが終わると、二人とも苦い表情をした。
思い通りに演奏できなくなった楓はもちろん、そんな楓を変えられない、爽介も悔しくて堪らない。
「やっぱり……俺。」
楓が思いつめた表情で諦めの言葉を絞り出そうとした時だった。
「楓先輩って、琴先輩いないと本当に駄目なんですね。」
爽介の口から出たのは、深く傷ついている楓にとっては毒を塗られた刃のような言葉だった。
楓の表情はみるみる厳しいものになる。
「……喧嘩売ってるのか?」
「いいえ。」
爽介は首を横に振る。
「仕方ない事だと思うんです。楓先輩は幼い時からずっと琴先輩の側にいた。演奏だけじゃなくて、幼馴染としても。」
楓が立ち直るまで時間がかかるのも無理がない。
以前、説得したのはきっと琴の幼馴染の楓だった。
彼は何とか琴の傍を離れて、自分の人生を生きようとした。
しかし、今、海の底のように深く、悩んでいるのは、琴の相棒として演奏してきた、クラリネット奏者の楓である。
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