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爽介の答えに楓が返したのは拒否の言葉だった。
「今は琴先輩が、いないから?」
「琴を、裏切る事はできない。」
裏切り。琴のいない舞台で、琴のいない演奏。
当然、琴が楓に合わせてくれる事はない。
爽介の提案しか、突破口はない。楓にもそれは分かっていた。
それでも、楓の心の中には琴がいた。
それを、爽介に合わすなどしたら、琴が演奏したいと言った曲中から琴が消えてしまうような気がして。
怖くて、怖くてずっと勇気が出ない。
頭を抱えて項垂れる楓に爽介は、冷たい視線を送る。
「じゃあ、いつまでも琴先輩に未練がましく縋って、演奏出来なくなるのと、どっちがいいですか?」
「……。」
楓は黙り込む。
爽介の言う事は正論だ。そうするしかない。
無いとは分かっている。
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