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信頼して欲しい。
自分にそれだけの技量があるかは分からないが、「楓が爽介を信じてくれれば絶対に最高のものができる。」それだけは確信していた。
「楓先輩、学祭の時、言いましたよね。何が何でも俺に合わせるって。」
「あれは……。」
「あの時できたなら、絶対に今回もできるはずです。絶対にその方がいい。そうするしかない。」
それでも、琴を忘れる事ができない楓の気持ちも分かっていた。
分かっていたから、爽介は優しく、「大丈夫。」と言った。
「忘れたとしても琴先輩はいなくならないから。」
自分の考えていたことを完全に見透かされて楓は黙り込む。
琴への未練が演奏に出ているのは分かっていた、分かっていても、心の中から離れない、離してはいけないものだと思っていた。
離してしまったら、もう二度と、帰ってこないんじゃないかって、今度こそ一人になるんじゃないかって。
何度も何度も。
今にも泣きそうで魘されるように頭を抱える楓を救いたい。
爽介はそれ一心だった。
あの事故の直後、病院で考えていたことと同じ。
遭葦楓を取り戻す。
ただそれだけだった。
「楓先輩は一人にならないよ。」
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