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ぽつりと呟いたあと「だって。」と爽介は理由を続けた。
「俺なら貴方を導ける。言ったじゃないですか、俺には俺らしく演奏して欲しいって。」
俯く楓の頬に両手を当てて、顔を向けると、強い覚悟と意思の言葉を言う。
「あの時みたいに、全部、俺に懸けてください。」
笑顔以外は、まるで、あの時の楓のように。
「なんで……そこまで。」
「これです。」
そう言って取り出したのはスティックだった。
琴からもらったもの。これを見せつけられるのは2度目だった。
「また、それか。」
「あの時は、まだ琴先輩の言ってた事が、ただのひとり言だったり、俺の聞き違いかもしれないって思ってました。」
琴の言っていた「楓をお願いね。」の言葉。
あの時は、本当に琴がそう言ったのか、半信半疑だった。
しかし、今は違う。
「けど、このスティックの事ちゃんと知って、確信したんです。聞き違いじゃないって。」
「どう言う事だ?」
「このスティックの材質、メイプル……楓の木なんですよ。」
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