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「すっげぇ……。」
思わず感想が口から零れ落ちた。
爽介の表情は、驚きと、感動を混ぜたようで、瞳はキラキラと輝いていた。
「これだよこれ!楓先輩!」
「うるさい……」
興奮気味に叫ぶ爽介に、思わず、楓は耳を塞ぐ。
「なんだぁ、吹けるじゃん!もっと嬉しそうにしましょうよ!」
確かに、今までで一番、いや、今までにない演奏だった。
爽介と楓だからこそできる二重奏は二人が初めて心を通わせたシングシングシングを彷彿とさせるもので、爽介は心底楽しそうであった。
しかし、楓は無表情で、何を考えているのか分からない。
楓が素晴らしい演奏をできたのに浮かない理由。
爽介には心当たりがあった。
「……やっぱり、俺より琴先輩の方が良いですかね?」
今までの、琴との二重奏とは全く違うものを演奏した。
それが、楓にとってやはり引っかかるのであろうか、爽介は楓の顔を覗き込む。
どんなに素晴らしい演奏だと評価されても、爽介が心底楽しくても、楓にとって楽しくないのであれば、この二重奏は失敗である。
全てを忘れて演奏しても、楓にとって意味がない。
爽介の不安そうな表情を察した楓は楽器を置いて、一度ため息をつく。
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