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「俺が、楓先輩を……。」
「そうだ、俺が誰かに合わせるなんて、お前くらいだ。」
「俺だけ……」
今まで多くの奏者が楓の演奏に合わせてきた。
そして、楓は何度もバンドを導いてきた。
けれども、そんな楓が唯一、導く事を全て任せることができる奏者。
それが、楓の憧れた魔法使い、爽介だった。
「それくらい信じている。せっかく、そんな魔法使いと演奏できるんだ。思い切り甘えさせてくれ。」
楓が少しだけ笑う。
その表情は柔らかくて、あたたかい、初めて見るような表情だった。
こんな風に、笑うんだ。
爽介は一瞬その笑顔に目を取られた。
「……星見?」
暫く黙っていた爽介を心配するように楓は問う。
「……楽譜書き換えるって、無茶苦茶でしょ。」
楓の呼びかけに爽介はようやく言葉を発した。
すると、顔を上げて笑い出す。
「あー、面白いなぁ!こんなの作曲者に怒られますよ。」
遂に頭がおかしくなったのではないかという心配は無用だった。
爽介の笑顔に楓は「そうかもな。」と相槌を打つ。
「けど、俺とお前の二重奏ならこっちの方がいいだろ。さっきの演奏もそうだったし。」
「確かにそうかもしれませんね。」
ソロとカウンターメロディ。
きっとこの二人なら大丈夫。
互いに確信する。
「……頼んだぞ。」
「はい。」
少ない言葉の誓いが静寂の中で響いた。
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