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アンサンブルコンテストの本番まであと二週間となっていた。
「じゃあ、最初から。一回通り通します。」
土曜日の昼下がり、いつも通りの合わせ練習が、音羽の指示によって始まる。
いつも通りでは無いところ、というと楓が今までの演奏を忘れて爽介に合わせるように方針を変えたことくらいだ。
「いち、に」と合図がかかるといつもとは違う電車の旅が始まった。
冒頭の佳貴のソロが終わり楓が息を吸う。
そして、奏でられたのは準備室での演奏と同じ、紛れもない爽介と楓の二重奏だった。
爽介はまるで、自分がソロを奏でる様だった。
気持ちの良いマレット裁きでビブラフォンを叩く。
爽介を立てるように楓のソロ、いや、カウンターメロディが奏でられる。
二人以外のメンバーの表情がピクリと変わる。それでも列車は進む。進み続けた。
一通り、曲を通し終わると、楓と爽介以外はぽかんとした表情を見せた。
「……あの」
感想も言われないと不安になり、爽介は思わず声をかけた。
すると、ようやく音羽が言葉を発する。
「どういうこと?」
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