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舞台裏に立つのは何度目だろう。
舞台の数だけ、この舞台裏にも足を踏み入れる事になる。
むしろ、舞台裏の方が少しだけ多いのかもしれない。
打楽器担当の爽介は管楽器の音出しが終わるまで一人で舞台裏に居た。
吹奏楽コンクールなら同じ打楽器パートのメンバーといる事が出来た。
しかし、アンサンブルコンテストは初めてだ。
一人ぼっちの舞台裏は新鮮だった。
最も、琴が一緒に居れば話は違ったのであるが。
そんな事を考えていると、音出しを終えた他のメンバーたちが、舞台裏に合流する。
自分たちの前の団体の演奏が始まったため、一切の私語は許されない。
聴こえてくるのは国立大学の打楽器演奏だった。
繊細で緻密な演奏。
この後に演奏するのはプレッシャーだった。
不安になり、爽介は楓の方を見る。同じように緊張していないか?そう思っていた。
しかし、楓の表情はいつもと変わらない。
練習の時とまるで同じだった。
大丈夫。いつも通りすればきっと。
表情だけで何を思っているか、分かった気がした。
そして、それは爽介にとっても、不安を和らげる。
楓が大丈夫だと言う表情をするなら、大丈夫だろう。
そう、感じた。
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