4-3.オーバーラン

10/43
前へ
/349ページ
次へ
演奏を終えた後、爽介は兼村と打楽器を搬出した。 虚無だった。 何も考えられなかった。 自分のせいで、タイムオーバーで失格かもしれない。 審査すらしてもらえない。 夏からの努力の結晶を、最高の出来だと思えるほどの宝石を一瞬で粉々に砕いてしまったかもしれない。 「星見君」 「……」 兼村が呼びかけても、返事がない。 解体され、車に載せられた打楽器をぼうっと眺めていた。 もう一度兼村は爽介に呼びかけた。 「おーい、星見君?」 「……あっ、はい。なんですか?」 「もうほとんど積み終わったからみんなの所へ戻りなさい」 「え、けどまだ」 積み終わっていないものもある。 それでも兼村は爽介の肩を叩いて「いいから」と言う。 「早くみんなの元へ行きなさい」 「はい……」 皆のところ。 正直、行くのが怖い。責められるだろうか。 自分が転げたせいで……責任は重い。 爽介がぎゅっと目を瞑ると、もう一度兼村は爽介の肩を叩いた。 「大丈夫。誰も君を責めないよ」 「そうですかね……」 「そうに決まっている。うちの演奏者たちは優しいから」 美和大学の奏者たちならきっと責めたりしない。 爽介を温かく迎えてくれる。 そう、確信するような、仲間たちを信頼するような兼村の眼差しが爽介に向いた。
/349ページ

最初のコメントを投稿しよう!

71人が本棚に入れています
本棚に追加