4-3.オーバーラン

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兼村に促されて皆が居る楽器置き場に向かった。 先ほどまで『オーバーラン』を奏でていた楽器たちは殆どケースにしまわれていた。 皆は爽介の姿を見かけると大層心配そうな表情になる。 爽介自身が酷く落ち込んでいるように見えたからだ。 「みんな……俺」 「大丈夫だって!演奏は良かったでしょ」 「そうそう、今まで一番良かったような気がするし」 野乃華と宏朋が爽介をとっさに励ます。 なんだか、気を使わせているみたいで申し訳ない。 「うん……」 俯きながら頷くのは不安だから。 「それに、まだタイムオーバーって決まったわけじゃないから」 そんな爽介の心情を察した佳貴がフォローした。 そうだ。まだ決まったわけじゃない。 少しテンポが走って5分以内に収まったかもしれない。 「そっか……そうだよな!」 今は、前向きに捉えるしかなかった。 爽介が何とか顔を上げたと同時にパタンと楽器ケースが閉まる音がした。 「楓……先輩?」 「……」 楓は無言で顔を逸らし、楽器置き場を後にした。 その瞳は少しだけ滲んでいた。 きっと、涙のせいだ。
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